組織再生療法について

トップページ > 組織再生療法について

組織再生療法について


アメリカの再生歯科医療
骨や歯の周りの組織を回復させる2つの再生治療薬
どうやって骨や歯の周りの組織が再生するのでしょうか?
再生医療の未来

アメリカの再生歯科医療

歯科治療にインプラント治療が登場して、40年以上が経ちました。利点の多い治療方法ですが、実際には、インプラント治療をする際にインプラントを埋める骨が失われている場合が少なくありません。
実際に歯科医院で、多くの患者さんが、「骨が無いのでインプラントはできない。」と言われたことがあると聞きます。
そのような場合、いままでは“骨移植”や“GBR法”という治療手段で対処してきました。“骨移植”とは、どこか他の場所から自分の骨を採集して、足らない場所へ移動させる方法です。しかし、骨を採取するために追加の手術が必要になりますし、十分あまった骨のある場所はほとんどありません。“GBR法”というのは、骨を失った場所をテフロンやコラーゲンでできたシートを利用して覆い、自分の骨が増えてくるのを待つ方法です。
これらの手術はとても難しく、高度な技術を要求されます。また、患者さんにも多くの負担を強いる手術でした。長年、多くの先人たちがこれらの治療方法をおこなってきましたが、十分な治療の結果が得られませんでした。
このような問題を解決するために、さまざまな臓器や組織を再生する医療が、世界各地で研究されています。私も、1990年代にハーバード大学へ留学していた際に、これらの研究に携わることができました。そして、現在、FDA(アメリカの厚生省)に認可を受けて、2種類の治療薬が歯科の再生医療に応用されています。
移植と違って、体のほかの場所を手術する必要も無く、GBR法のように人工の材料を使うことなく、治癒する期間も非常に早く、安全で、確実な治療の結果を得ることができるようになりました。

骨や歯の周りの組織を回復させる2つの再生治療薬

今アメリカでは、骨形成タンパク質(BMP)と血小板から由来する成長因子(PDGF)の二種類の治療薬は、歯科で使われています。
BMPは、インプラントを埋めるための骨を再生させる能力が非常に強力で、NHKでも何度か紹介されたことがあります。この薬剤は、整形外科でも骨を回復させるために、たくさん使用されています。
現在の上司で、恩師でもあるペンシルベニア大学歯学部歯周病科主任教授のFiorellini主任教授が、この薬の臨床試験に多く携わっていましたので、自分も多くの知識を得ることができました。
PDGFが、歯の周りの組織(骨・歯肉・歯根膜等々)を再生させるために歯科で使用されています。幸いにも、この薬についてもハーバード時代の友人や恩師がこの研究を多くされていましたので、多くを勉強することができました。
この二つの薬は、FDA(アメリカの厚生省)では認可されています。しかし残念ながら、日本では厚生労働省が認可していませんので、一般に使用することができません。日本で使用するためには、薬務局監視指導許可が必要になります。
みなさんは、既にご存知だと思いますが、海外で一般的に使われている薬が日本では許可されていないことが多いのです。これを“ドラック・ラグ”といって“新薬承認の遅れ”と訳されています。

どうやって骨や歯の周りの組織が再生するのでしょうか?

骨を作るのは骨芽細胞(こつが)といいますが、元は幹細胞です。正確には、間葉系幹細胞といいますが、人になる胚性幹細胞(ES)とは違って、体性幹細胞の仲間です。この細胞は、体のいろいろなところにありますが、骨が折れるとこの細胞が骨芽細胞へ変化して、骨をなおし始めます。この中で、BMPは、幹細胞を骨芽細胞へ変化させる役割をします。PDGFは、この細胞が骨芽細胞に変化する途中のプロゲニター細胞を、細胞分裂でたくさん増やして修復しやすくします。
簡単に書くとこのようになりますが、この治療で骨を作る(再生)するの患者さん御自身の細胞で、この治療薬は細胞に指令を出す(シグナル分子)役割をしています。移植とは、まったく異なる理論でおこなっている治療法です。

他にも、いろいろな治療薬が開発中です。特に、オバマ大統領になってから、研究開発に弾みがついています。
最近では究極の治療法として、歯の再生が注目されていています。アメリカでは人工歯(入れ歯用の歯)を作っている有名な会社が、歯の再生についてパテント(権利)を取得しました。でも、冷静に考えると、コスト的にとても現在のインプラント治療に取って代わることは難しいといわれています(おそらく歯が1本数百万円!!)。今後、再生医療はコストという大きな壁に直面するのではないでしょうか。

参考文献

1)Lynch SE, Wisner-Lynch L, Nevins M, Nevins ML.

A new era in periodontal and periimplant regeneration: use of growth-factor enhanced matrices incorporating rhPDGF.
Compend Contin Educ Dent. 2006 Dec;27(12):672-8; quiz 679-80.


2)Nevins M, Camelo M, Nevins ML, Schenk RK, Lynch SE.

Periodontal regeneration in humans using recombinant human platelet-derived growth factor-BB (rhPDGF-BB) and allogenic bone.
J Periodontol. 2003 Sep;74(9):1282-92


3)Simion M, Rocchietta I, Dellavia C.

Three-dimensional ridge augmentation with xenograft and recombinant human platelet-derived growth factor-BB in humans: report of two cases.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2007 Apr;27(2):109-15.


4)Elsalanty ME, Por YC, Genecov DG, et al.

Recombinant human BMP-2 enhances the effects of materials used for reconstruction of large cranial defects.
J Oral Maxillofac Surg. 2008 Feb;66(2):277-85.


5)Simion M, Rocchietta I, Kim D, Nevins M, Fiorellini J.

Vertical ridge augmentation by means of deproteinized bovine bone block and recombinant human platelet-derived growth factor-BB: a histologic study in a dog model.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2006 Oct;26(5):415-23


6)Bianchi J, Fiorellini JP, Howell TH, et al

Measuring the efficacy of rhBMP-2 to regenerate bone: a radiographic study using a commercially available software program.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2004 Dec;24(6):579-87.


7)Fiorellini JP, Buser D, Riley E, et al

Effect on bone healing of bone morphogenetic protein placed in combination with endosseous implants: a pilot study in beagle dogs.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2001 Feb;21(1):41-7.


8)Cochran DL, Jones AA, Fiorellini JP, et al.)Fiorellini JP, Buser D, Riley E, et al

Evaluation of recombinant human bone morphogenetic protein-2 in oral applications including the use of endosseous implants: 3-year results of a pilot study in humans.
J Periodontol. 2000 Aug;71(8):1241-57.


9)Howell TH, Fiorellini JP, Paquette DW,et al.

A phase I/II clinical trial to evaluate a combination of recombinant human platelet-derived growth factor-BB and recombinant human insulin-like growth factor-I in patients with periodontal disease.
J Periodontol. 1997 Dec;68(12):1186-93.


10)Howell TH, Fiorellini J, Jones A,et al.

A feasibility study evaluating rhBMP-2/absorbable collagen sponge device for local alveolar ridge preservation or augmentation.
Int J Periodontics Restorative Dent. 1997 Apr;17(2):124-39.